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第29回日本統合医療学会学術大会
大会長 上野 富雄
川崎医科大学 消化器外科学教室 主任教授 |
「統合医療」という言葉や分野に、馴染みがない方もいらっしゃるかもしれません。ネット検索によると、「近代西洋医学と伝統医学や相補・代替医療を組み合わせて行う医療です。患者を中心とした医療システムで、個人の生老病死に関わり、生活の質(QOL)の向上を目的としています。」なんてことが書いてあります。こう聞くと難しく感じるかもしれませんが、そんなことはありません。例えば、災害で日常が一変してしまった後、被災者の心を励ますニュースを見聞きしたことはありませんか?自衛隊の音楽隊が奏でる音楽、提供されるお風呂、理髪師による散髪。これらが心に癒しを与えるという話をよく耳にしますね。実は、自衛隊の音楽隊:音楽療法、お風呂:温泉療法、散髪:化粧療法、といったこれらの活動も、立派な統合医療の一分野です。
話を病気に例えるとどうでしょうか。今まで元気だったのに、急に病気になる。極端な話、“がん”としましょう。手術できれば、手術がいいし、放射線、薬物療法、免疫チェックポイント阻害薬、と組み合わせて治療をするのもいいでしょう。また難しい言葉ですが、こうした組み合わせ治療は「集学的治療」と呼びます。この「集学的治療」に含まれるのは、いわゆる「エビデンス」(科学的根拠)のしっかりした治療法です。しかし、これだけで本当に“がん”が「治る」と言えるでしょうか。患者さん一人ひとりの生活や心のケアに目を向け、痛みを取ったり、生活の質(QOL)を向上させる取り組み、すなわち「統合医療」が必要なのではないでしょうか。
「エビデンス」とは客観的証拠という意味で、「エビデンス」に対する概念として「エクスピリエンス」(経験)があります。ニュースで「音楽に救われた」という被災者の言葉、これは個々の経験(エクスピリエンス)です。同様の経験が多数に共通しており、音楽が脳波に与える影響などを分析すれば、それが「エビデンス」として認められる可能性もありますが、「音楽はいい」「温泉は気持ちいい」といった直感的に正しいと感じられることが「統合医療」には多く含まれているのも特徴です。もちろん、疾病の治療には近代西洋医学だけで解決できることも多いですが、人の心や全体的な幸福感を支えるには、伝統医学や相補・代替医療を組み合わせることが有効で、これが「統合医療」の本質です。
そんな中、今回選ばせていただいたテーマは「皆で共有しよう、統合医療の奇知・叡智」です。プログラムには、すでに保険適用され「エビデンス」が確立しつつある漢方や一部のプラセンタ療法のみならず、不妊治療に関する統合医療、スピリチュアルケア、ホメオパシー、整体、カイロプラクティック、予防医療、食事療法、光免疫療法、音楽療法、芸術療法、化粧療法、アロマ療法、アニマルテラピー、鍼灸、ヨーガ、アーユルヴェーダ、などなど、種々の講演、シンポジウム、ワークショップを企画しております。岡山大会では、それぞれの分野で培われた「エクスピリエンス」を紹介し合い、どうすれば「エビデンス」として確立できるのかを一緒に考えてみてはいかがでしょうか。また他分野の話を聞いて見聞を深めることで、新たな発見も得られるはずです。そして、この岡山大会が統合医療にこれまであまり関心がなかった方々にも、新たな視点を提供する機会となれば幸いです。
年末のご多忙な折ではございますが、ここ岡山で「統合医療の奇知・叡智」を皆さまと共有できることを心より楽しみにしております。